石飛幸三

こういう現場にいると毎日、生と死について考えさせる事態ばかり。百人もいて、誰が逝ってもおかしくない世界。例えばアルツハイマーになって十年以上で五日間ほとんど何も食べていない奧さんがいて、ご主人はそろそろ最期だと理屈では分かっていても諦めきれない。何日か話し合い、検査で炎症症状がないのも確認してご主人もほっとして思い残すことなく、遠くにいるお子さんを呼び寄せようか、となる。そうしたことの連続。みんな迷う。人間そのものです。 何もしなかったらこんなに穏やかに逝けるのか、とここへ来てびっくりした。老衰の末期になると皆さん食べなくなる。そこで無理やり『点滴しなきゃ』『胃ろうで栄養入れなきゃ』としなければ、苦しまず眠って眠って自然に最期を迎える。この人もこの人も…そういうことなのかと勉強させてもらった。 自然な老衰死をすっと受け入れる人もいれば迷って迷って…という人もいる。息子と娘で意見が真っ二つになることもある。どうしたらいいか。スパッとした答えがあるようで、実はそうじゃない。人間の心の問題なんです。家族一人一人がとことん悩んだら、後になってできるだけのことをした自分の誠意を信じて収まりがつくんじゃないかと思う。迷っていいんだと言いたい。